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第16回総会(平成27年4月23日開催)講演摘録
第16回総会(平成27年4月23日開催)講演摘録
「京都市の産業戦略について~京都産業の更なる発展に向けて~」
講師:白須正氏 (京都市 産業戦略監)
産業戦略監とは産業観光に留まらず、公共事業の発注など、より広い形で京都市の産業振興を図っていくもので、様々な分野に関わってくるものである。
今、地域産業は伸び悩んでいるため、アベノミクスなどの政策が進められる中、一方ではグローバル化や地域の都市間競争などで自治体は何で食べていくのかが重要になってきている。
企業からの税には事業所税と固定資産税があり、また従業員の市民税も考えると、税収面でも企業活動は非常に重要である。
京都市ではこの5年間で170億円以上の税収が減ってきているという点でも産業の活性化に努めていきたい。
産業政策では雇用の場を確保する事が重要で自治体の目標は雇用の場を創出する事である。併せて企業は地域、スポーツ、文化活動に資金面、人的な面で貢献している。そういった点で自治体の産業政策は社会経済の変化に地域経済がどう対応していくかを考えていく必要がある。
アメリカのデトロイトの自動車産業は、産業構造の変化に自治体が対応出来ずに財政破たんを招いたという例であり、こういった点でも自治体の産業政策は大きな意味を持っている。
京都は人口147万人を抱える産業都市であるが、工業出荷額はピーク時の平成3年の全国7位から平成25年度は全国16位と相対的に落ちて来ている。
小売販売額は、東京を除くと、1番は大阪で、神戸、名古屋、札幌と続いて京都は5位である。小売販売額は人口との関連があり、福岡は企業が集積し、人口も京都を超えているが、現時点では京都の方が上である。これは年間5,000万人を超える観光客、15万人の学生がいるという事、また通勤流入者が約8万人という事が背景にあり、このような点からも京都市が産業都市であると言える。
京都市には、産業のバックヤードとして、一つ目にまず宗教の本山があり、観光・文化などでも大きな役割を果たしている。2つ目は大学の集積で学生数は15万人と京都の人口の1割を占める。学生は都市に活力を与え、経済的にも大きな効果があり、また産学連携などの効果もある。3つ目は文化の集積で家元、文化芸術、伝統芸能などで国宝、重要文化財も多い。京都の特徴はノーベル賞受賞者など、素晴らしい人材の集積があることでこれらが京都の産業のバックヤードになっている。
京都市は観光客数が5,000万人を超える観光都市である。修学旅行客も減らないように関連業界とともに努力をしている。修学旅行で来て、その後また観光に来る人や京都の大学に来る人もいるので修学旅行客は重要な意味がある。
コンベンションシティという面もあり、横浜の大ホールや国際会議場、国立施設は都道府県や民間で維持されているが、国立で全て維持されているのは京都の国際会議場だけである。
ものづくり都市でもあり、京都には上場企業が57社あって、売上1千億円以上の企業は15社ある。活躍しているオムロン、ワコール、堀場製作所、ローム、京セラ、日本電産などは全てベンチャーであり、京都はベンチャーの町と言える。昭和47年頃に一斉にベンチャーキャピタルが出てきたが、日本で最初に出来たのも京都である。
伝統産業の町である。昭和49年に伝産法が出来て規制が始まったが、京都は早い時期に全部指定を受けており日本のトップである。京都市は伝統産業の条例を作り、漬物などの食品も含めて伝統工芸品の対象を広げている。
中小企業の町である。西陣・友禅など、繊維産業が京都の中小企業の最大の特徴であり、昭和63年まで京都の出荷額は1位であった。
小売事業でも京都は商業集積ガイドプランを定め、都市計画法の用度地域により、厳しく店舗面積の上限を定めるなど、様々な取組をしてきた。
国民全体の趣向が変わってきて、どんどんものを買うという状況ではなくなってきており、製造品出荷額、商品販売額及び事業所数、従業員数も減少している。このような事を踏まえると、京都市民は何で食べていくのかという事を考えないといけない。
伝統産業も今は厳しい状況になっている。今でも京都ブランドや伝統は重要であるが、経済的な数値だけでいうと大きくはない。京都だけではなく日本全体の伝統産業が右下がりになっている。
一方、サービス業は右上がりの傾向にあって従業者数も増加しており、製造業の減少分を埋めている。日本全体が製造業からサービス業に転換しており、これから京都市も含め、自治体の対応が大きな課題となっている。
基本的に経済が右上がりの時、自治体は特に困っている中小・零細企業を支援していく個別企業対応の考え方と業界団体・業界組合の対応を中心としていた。主要な産業施策は「金融支援」「経営支援」「技術指導」の3本柱で、金融支援では制度融資が今も重要な役割を担っており、経営支援では個別企業の経営相談、業界の体質強化、販路開拓等の補助金の拠出など、技術指導では産業技術研究所で金融系技術といった従来の産業政策を行ってきたが、産業のグローバル化や経営環境が変わる中にあっては、新しい産業政策が必要である。
観光はこれからの京都に取って重要な産業になる。京都の観光客は高度経済成長期に急増し、その後伸び悩んでいたが、平成13年に基本計画で観光客5,000万人構想を打ち出して花灯路などの様々な事業を始め、平成20年には目標の5,000万に達した。これからは人数だけではなく、観光客の質の充実を考え、「5,000万人観光都市」から「5,000万人感動都市」を目標に、グローバルMICE戦略都市の選定や新しい観光地づくりを進めた結果、トラベル&レジャー誌で世界1位という高い評価を受ける事になった。
未来へ引き繋ぐ政策として、平成19年に新景観政策を作った。京都ならではの政策で、高さ規制を45mから31mに、まち中の高さは31mから15mにし、デザインの規制、眺望景観の保全・借景の保全・屋外広告物の規制・歴史的町並みの保全再生の6つの柱を掲げ、都心部の観光が変わった。従来の観光客は周辺部の寺院に行く事が多かったが、今はまち中が観光の要素になり、食・土産・店などが上手く展開する事により新しい魅力が出せた。高さ規制をする事により、活力低下や高さ規制が事業の妨げにならないかなど、様々な議論が起こったが、結果的に高さ規制により京都のブランド力が上がった。これからはそのブランド力を活かせる産業を伸ばして行くことが戦力となる。
京都市は伝統産業を中心とした取組をしてきたが、国は平成12年から産学連携、大学と企業との連携を中心とした成長産業を造り出していく取組を行った。これをうけて平成14年3月にスーパーテクノシティ構想、平成14年4月にスーパーテクノシティ推進室が出来て、産学連携で取組を進めることとなった。
その中で大きい点がベンチャー企業の育成と第2創業への支援である。これは既存の企業が新たな分野で事業を展開するもので、任天堂が花札をトリンプに変え、最終的にゲームを創り出して大きく伸びた。第2創業は昔からあったが、これを京都ブランドと併せて意識的に取り組んでいく。
もう1点、魅力ある立地環境の整備は京都にとって新しい取組である。京都市には全国的に見ると多くの工業団地がある。清水焼団地やものづくりでは久世工業団地などである。それ以降は京都市の取組ではないが、京都大学の桂坂移転を活かして、周辺の売れ残った住宅用地を活用して産学連携を進める取組を行っている。
その他、新規成長分野への支援、バイオシティ構想など、国の予算で新成長分野への取組を始めたのが平成14年6月である。これまでの取組は困っている企業などへの個別の支援であり、業界団体対応であった。
目利き委員会とは、認定制度で選ばれたベンチャー企業に対して重点的に投資していくもので従来とは違う産業政策である。
京都リサーチパークは、日本の中でも有数のベンチャー企業の集積地になった。府・市の関係だけではなく、民間でIT系の企業、製薬関係の企業なども入っており、現在約4,000人が働いている。
京都市もその中で連携の取組を進めており、京大桂ベンチャープラザは経済産業省系の中小企業振興機構が造った施設である。これはインキュベーション施設で、大学と研究しながら成果を出していくところである。
JSTイノベーションプラザは文部科学省系の産学連携施設であり、出来るだけ民間に任せていくという国の方針で、今は京都大学が引き継ぎ、JSTから京都大学イノベーションプラザになっている。このあたりが京都の強みである。
このような産業政策に引き続き、京都のブランドを活かして豊かな生活と社会を実現できる産業政策を目指し、新しい産業の育成、世界モデルとなるビジネスの展開をする目的で、平成23年に京都市新価値創造ビジョンを策定した。しかしこれも今年度で終わる為、次の新しいビジョンを作る必要がある。
健康・予防・介護など医学関係のニーズが高まっている中、新たな京都の産業政策として、京都大学の中に先端医療機器開発臨床研究センターをつくり、医工薬連携支援オフィスを設置した。京都市成長産業創造センターも市が政策、事業を行っているが、基本的に運営は京都高度技術研究所にお願いしているなど、様々な取組を行っている。
また、新たな産業政策としてコンテンツ産業の取組がある。日本のアニメは世界中の注目を集めており、平成24年度からみやこメッセで京都国際マンガ・アニメフェアを開催している。ただ人を集めるだけではなく、コンテンツを京都の伝統産業にどう結び付けていくかがポイントである。
もう1つ、京都国際マンガ・アニメフェアで重要なものは、マンガ出張編集部である。京都の大学にはマンガ関連の学部があり漫画家志望者がいるが、作品を出版社に持ち込む事が出来ない。そこでこの編集部では多くの出版社の方がマンガを見てアドバイスしたり、良いものは作品にしてもらえるなど、京都ならではの取組であり、東京からも注目されている。
さらに、平成25年からマンガ家を育てるため、町家を活用した京都版トキワ荘を整備し、出版編集部との交流などを行っている。このほか、京都を舞台としたマンガではその舞台に多くの観光客が訪れ、アニメの聖地巡礼マップとして注目を集めている。
新しい分野だけではなく、伝統産業をどの様に次に繋げていくかということで、研究開発の支援・人材の育成・企業のマッチングなども進めており、特に平成22年には産業技術研究所に知恵産業融合センターを設置し、新商品の開発、販路の開拓などを行っている。
海外進出支援事業では、伝統産業の新展開・海外市場販路開拓で京都商工会議所と連携し、海外展開を目指す中小企業を支援する取組を行っている。これは京都にあるものを持っていくのではなく、海外のニーズに合った商品を海外デザイナーと共に開発していくものである。
京都には多くの良い企業があるが、製造業の出荷額は減少しおり、昨今のグローバル化の影響でものづくりは難しくなっている。そうした中で、特定の分野で強い技術力を持って世界の大きなシェアを占めていく企業が必要であり、そのために独自の力を持って仕事を発注するような企業を育成していくというのがグローバルニッチトップ企業の創出、支援である。ベンチャー企業の育成、既存の中小企業の技術力、開発力を高めるための専任コーディネーターの斡旋など、積極的な支援を行っている。
ライフイノベーションは、健康・予防が重要になってくる分野で、京都の医療産業がネットワークを形成し、予防に力を入れている。
グリーンイノベーションは環境分野の研究開発で、この成長産業創造センターもグリーン分野や環境に力を入れている。
京都市は、企業立地の相談窓口を整備し、企業立地促進助成制度も充実させた。らくなん進都も誘致の拠点とし、多くの企業に立地してもらえるよう努めている。市としては企業の流出が困るため、らくなん進都では農地の問題などもあるが、企業向け用地を確保していきたいと考えている。
平成26年度にらくなん進都まちづくりの取組方針を策定し、世界に開かれた活動の展開、質の高い魅力的な都市環境の形成などを通して、らくなん進都を中心に新しい新興企業育成を考えている。
その中で、市の企業立地助成制度を活用した企業だけでも29社がらくなん進都に立地している。助成制度を活用していない企業もあるので実際はもっと多くの企業が入ってきている。地区の魅力を高めて、都市機能を集積し、これがさらに新たな集積に結びつくように様々な取組を進めていきたい。
その拠点として平成25年11月に設立したのが京都市成長産業創造センターで付加価値の高い高機能性化学品の創出を中心に、グリーンイノベーション、ライフイノベーションを実現し、産業競争力の確保や新規事業の創出を図っていく。
らくなん進都が魅力ある街であっても、核になるものがないと次に繋げる展開が難しいため、様々なプロジェクトが動いている。シンポジウムの開催などで地元の中小企業も出入りし、その結果、情報交換も生まれ、成長産業創造センターも力を発揮出来ている。
観光産業では、新たな京都の魅力づくりの一環で都心部の創造的再整備として、岡崎地域を文化・観光ゾーンにしていくため、ロームシアター京都を来年1月にオープンさせる。それに伴い神宮道も今年の秋から歩行者空間になり、岡崎のイメージは変わる。美術館の整備も検討を進めている。
梅小路公園には水族館があり、鉄道博物館も整備が進められ、魅力が高まっている。ここを拠点に中央卸売市場第一市場の施設整備も計画を進めており、全体として賑わいのゾーンにしていく。梅小路公園をベースに文化・観光の場として、あじわい館や中央市場もあり、京都の食文化を担っていく地域にもしていきたいと思っている。
MICEの推進では会議場の充実や国際会議の誘致活動を強化し、観光振興でも外国人宿泊客数年間300万人、観光消費額年間1兆円を目標としている。
次の新しい産業ビジョンは、創造産業、京都のブランドと知恵を活かすような産業が重要である。これまでの取組に加えて伝統産業の新たな展開や観光との一体化もあり、食や海外との関係もある。これに加え、コンテンツの分野、芸術文化の産業化、ロームシアター京都のオープンなど様々な取組を展開しており、ここから新しい産業を起こし、それと産学公連携による成長産業の分野も併せて、京都全体の産業の活性化を進めていきたい。
京都市には多くの中小企業があり、新しい取組と共に中小企業の業界診断も行っており、中小企業の課題は何か、どのようにすれば新しい事が出来るかを考えている。昨年度は印刷業界と陶磁器の業界と小売薬品とで新しいビジネスモデルを考えることもしている。京都は可能性を持った都市であり、地方創生のまち・ひと・しごと、そして心で京都の強みを活かす事により産業の振興を図っていきたい。取組の中では特に成長産業が中心となると考えており、らくなん進都の力を借りながら京都市全体の発展の原動力にしていきたいと思う。